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『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』&銀幕デヴュー、のはなし。 [シネマ・はすらー]

 どうも。
 先日、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』にて、銀幕デビューをしてきた者です。
 つまり今後はワタクシのことを、映画スター、若しくは俳優として認識なさってくださってもよろしくってよ?
 今後の活動は未定です。サインが欲しい方(ナオンさん)は連絡クダサイ。 

 さて。
 その、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を、渋谷クンダリーニまで行ってみてきたのですよ、ワタクシは。
 ああ、面倒くせぇなっ!
 しかしワタクシにとってこの、『SRサイタマノラッパー』シリーズというのは、一言で言えばこれが、「…俺の映画だッ…!」という作品。
 なので、「観ない」という選択肢は、ハナからあり得ないのです。
 いや勿論それは、エキストラとして…あ、いや、俳優として出演している、という意味で、ではありません。

 結論から言えば、「良かったッ!」です。
 そして、又観ます。必ず。
 
 何が良かったか? と言えば、「精神が変わっていない」ところ。
 細々したところでシリーズ物的な意味では、MIGHTYのその後などが描かれているところ、そしてそのMIGHTYのその後が、見事なまでに一作目、そして二作目という流れで作られた、IKKU及びTOMのその後と対比して描かれているところ。
 まあ、「よくいる気の良い田舎のボンクラ」感全開だったMIGHTYが、2年間でこんなにも荒んでしまうとは…ってなのも無理があるのかとせうなのか、意見が分かれそうではありますが。

 それはそれとして、その、作品全体、シリーズ全体としての精神、について。
 
 世の中に、「青春」や、「夢を追い続ける若者の素晴らしさ」なんてのを描いた作品はごまんとあります。
 例えば、軽音楽部の可愛らし~い女子高生たちがキャッキャウフフとぬるんぬるんのぬるま湯に浸かり続ける作品、で、あるとか。
 例えば、特に何のやりがいも無くのんべんだらりと過ごしていた高校生達が、何かの思いつきで何かしらの活動を始め、紆余曲折の元に竹中直人の指導を受け、仲間が徐々に集まるも、何かの理由でバラバラになり空中分解。しかし主人公とごく親しい友人達だけは頑張ってそれを続けていくうちに、途中で去った連中も戻ってきて、ラストの発表会は大成功、青春って、仲間って、頑張るってスバラシイ! という作品、であるとか。
 最初から才能に溢れまくった若者2人が、日本で一番売れている漫画雑誌で一番の売れっ子人気作家になると言い出したら、別にそんなご大層な挫折も困難もなく、編集者にも初見で見初められ、周りの同業者にも諸手を挙げて大絶賛されて、後は定期的に既に挫折したり自分達とは違うタイプの漫画描いている他の端役をイカレポンチの人格破綻者扱いして小馬鹿にしたりしつつ、最終的には幼なじみと結婚しました、わー、夢を追い求めるって素晴らしいな、友情努力大勝利! 負け組連中クソッタレ!! ってなクソマ…バク裂するほどにおもしろいマンがとか。
 まー、色々と、あります。

 それら、スバラシイ作品群があるにもかかわらず。
「けど、これは、俺の『凄春』じゃあない」
 という人たち。
「そんなおキレイかつお手軽な青春絵巻は、実に絵空事らしくて、まるでピピンとも来ないしグッとも来ない」
 という人たちの中には。
 もしかしたら。
 もしかしたら、ば。

「そうだ、俺の『凄春』は、こーだったよ! こーなんだよ! そして、今でもこーんなんなんだよっっ!!!」

 と。
 そう思う人は、居るかもしれない。

 それが。
『SRサイタマノラッパー』 シリーズで、あ~ります。

「夢は諦めなければ必ず叶う」
 というよーな事を言う人はそこそこ、まあ、ちょろちょろ居ます。
 とはいえこの言葉は見事なまでの詐術でありまして、
「それはどうかニャ~? 叶わない夢だってあるんじゃないかニャー?(ドルバッキー)」
 と言われたときに、
「それは、諦めたから叶わなかったのです」
 と返すことが出来るわけで、いやその理屈で言ったらそうでしょーよ、ってなもんではありますよ。

 しかし、です。
 しかしですね。
「諦めなければ夢は叶う」
 というのは、言い替えれば
「叶わない夢には意味がない」
 という考え方が裏側にあるとも言えます。
 そしてたいていの場合に語られる「夢」の、「叶った」状態というのは、分かりやすいほどの「見返り」を指している。
 もっと別の言い方をすれば、「見返りとしての成功」「現世利益としての報酬」が無ければ、「夢なんか追っても意味がない」という、見事なまでに即物的思考による、「夢を追い求めることってスバラシイ」な訳です。
「夢を追い続ける若者の素晴らしさ」=「安易で分かりやすい即物的なサクセスストーリー」という、図式。
 そう、「スバラシイ作品を描くこと」より、「アンケート1位! アニメ化! 売れっ子! 結婚!」 という、正に「見返り」こそが、「夢」
という価値観。

 例えば、映画版『KICKASS』において、主人公デイヴが「ヒーローになると言う夢を叶える」事には、「それでモテモテになるし人気者になれたし、殺人を爽快に楽しめるアメリカンタフガイになったよ!」 という、「見返り」があった。
 けれども、原作コミックの方では、ヒーローになる事による見返りは、何一つ無い。
 デイヴは相変わらずただのヒーローオタクなボンクラのままだし、モテモテどころか好きな女の子からはこっぴどく振られるし、イカ臭い童貞のままだし、人気者にもなれないし仲間も出来ない。
 何の報酬も見返りもない夢を、けれどもデイヴはいつまでも抱え続けている。
 ヒーローになる、続ける事。それ自体が、宝だからだ。
 それを世間では何というか?
 夢を追い求めるスバラシイ若者? いや絶対にそうは言わない。
 幼稚なコドモ大人程度の扱いをされるのが関の山だろう。

 この映画は、そういう人たち向けの映画だ。
 幼稚なコドモ大人向けの映画だ。
 或いは、一度でもその、幼稚なコドモ大人であったことのある人たち向けの映画だ。
 又は、既に幼稚なコドモ大人である事を辞めてしまった人のための映画だ。
 そしてだからこそ僕は、この映画こそが、本当の意味で、「凄春を描いた映画だ」 と、そう断言する。断言してしまう。

 青春の痛みとは、別れの痛みだ。挫折の痛みだ。痛々しさの痛みだ。迷いと戸惑いの痛みだ。後悔と自己欺瞞の痛みだ。孤立と孤独の痛みだ。
 誰からも顧みられず、誰からも褒め称えられずに、ただ自分が無価値で無意味な存在だと言うことを思い知らされる日々の痛みだ。
 そして或いは、何等ドラマチックな事など起きずに、平易なまでの退屈な日々をじくじくとした気持ちを抱えたままやり過ごすしかない、柔らかな痛みでもある。
 ときにはそれらを笑い飛ばし、時にはそれらに押しつぶされ、ときにはそれらを振り切ろうとしてむやみやたらに走ろうとする。そういうときの痛みだ。
 それらの痛みを描けていないのならば、それは青春を描いた作品だとは言えない。
 青春という記号を、ただギミックとして取り入れただけの作品に過ぎない。

 この映画、シリーズで語られる、「夢を追い求めたまま生きることの見返り」は、実にシンプルで単純明快だ。
「夢を追い求めたまま生きられること」
 それ自体。
 それ自体であり、それこそが、唯一無二の、「夢を追い求めたまま生きることの見返り」なのだ。
 それがどんなに痛々しく、どんなに幼稚で、美しくも無ければ羨ましくもないものであっても。
「夢を追い求めて生きることの見返り」は、「夢を追い求めたまま生きられること」それ自体であり、それのみなのだ。
 それが、『SRサイタマノラッパー』シリーズで語られている、精神。

 その事を、美化もせず、貶めもせず、安易でお手軽な友情サクセスストーリーに仕立てもせず、けれどもただの悲観主義的ニヒリズムに堕しもせず、嘘くささと切実さ、馬鹿らしさと真摯さとの境界を行きつ戻りつの絶妙なバランスで、エンタテイメントにしている。
 
 ラスト、及びクライマックスの長回し。
 このシリーズ定番となっているラップによる呼びかけと、堪えきれずにそれに"応えて"しまうときのあのどうとも言えない息を呑むやりとり。
 生身の声、むき出しの言葉によるリリック。
 積み重ねてきた要素。積み上げてきた展開。それらの全てが凝縮され、登場人物達のどうしようも無い心が露わになる瞬間に、敢えてラップという技巧を使わせるという演出は、誰にも真似できないし追随することも出来ない。
 この瞬間に、そしてこの演出だからこそ、観ている側も生身の心を溢れさせざるを得なくなる。
 どれだけ言葉を尽くして語ったところで、彼らのリリックの応酬を語れる言葉は出てこない。
 観るしか無い、というのは、まさにこの場面のことだろう。
 これを感じるには、観るしか無いのだ。
 

(…ただこのクライマックスからその後のラストカットの流れ。
 僕は何故か勝手に、フェスでの場面がラストカットだと思い込んでしまっていたので、その後さらにもう一段あったのを観て、「あれ…?」 となってしまったのです。なのでちょっとだけ、ラストシーンに入り込むのが遅れ、何か冗長に感じてしまったというのがあります。
 これはまー、そこにエキスト…俳優として参加してしまった事もあって、あの場面への思い入れやそのとき観た情報で、良くないバイアスが掛かってしまっていた様子。
 僕の記憶が正しければ、あのフェスでのIKKU達の呼びかけに対して、MIGHTYが、「振り返って」カットの声、だった気がするのですね。でも映画本編では一切振り返らず、完全に拒絶したままで次の場面に進む。
 次の場面に進む上では、MIGHTYの拒絶は必須なんですが、ここで「振り返る」と言う情報[又は錯覚]があった事も、この場面がラストだという勘違いに繋がっていたと思います。
 改めて思い返すと、撮影時にもちゃんと、「本当のラストカットは別にある」という話はしていたよーな記憶もあったりしますが…。
 なので。
 又、観ます)
 
 えー。
 てなわけで。
 何でも、以前は「全都道府県制覇でもしてやろうか」なんて事を抜かしてけつかったらしいこのシリーズですが、今回で一区切り、「三部作」として簡潔、という事にする、らしいという話だそーで。
 それは、寂しくはあるけれども、正解だと思います。
 まあ、一つはこれ、よく言われる話ではありますが、あらゆる現代劇は3.11以前と以降で、語られるべき事が変わってしまった、というのもあるとは思います、が。
 これ、やっぱり、シリーズ長く続けたら駄目な作品だですよ。
 結局の所、IKKUもTOMも、そもそもが、「夢を見たまま生きられることが見返りである」という立ち位置にある訳で、それをそのまんま長くシリーズ化して引っ張ったところで、それは単なる、「夢を見つづけるぬるま湯に浸かり続ける話」としてしか再生産され無くなっちゃう。
 現実には、ドラマチックな事など何もないまま、それでも「夢を見続けて」生きていく訳ですから良いんですが、こと、そういう状態のまま、エンタテイメントとしてシリーズ化を続けていたら、その精神は悪い方向に腐るのは必然だと思います。
 ラストカットの長回しラップも、シリーズ化したらもう5~6作目くらいで、「ただのお約束ギミック」化して、何か陳腐化してしまいかねないですし。
 なので、ひとまずこれでさようなら、という事で。
 よろしいんじゃあないでしょうか。


 最後に不満点。
 渋谷シネクイントで、上映後のトークショーがあったのですが。
 あのー、神聖かまってちゃんとかいうやーつーのシャクレメガネとかが、さ。
「僕たちが登場した場面、分かりましたぁ~?」
 とか、延々そんな話していたのですが、シラネーヨ!
 と言うかですね。
 この手の所謂カメオ出演とかって、まぁDVDとかでおまけ的に楽しむ要素としてはアリでしょうけど、ぶっちゃけ劇場で話に食い入るように見ているこちとらにゃ、そんなウオーリーを探せごっこなんかしている余裕ありませんから!
 てかそんなの探して観ているって、どんだけ話追ってねーんだ、ってなモンでしょうよ。
 この、カメオ出演とか言う事に関する、出演者、制作者側の位置づけや温度と、観る側としての位置づけ、温度の差は。
 もちと、分かっていただきたい。
 ぶっちゃけ近年の映画制作者側のこれらに対する変な思い入れというか、押し出し感? どうだスゴイだろう、サービスしてやってんよ感?
 悪い風習です!
 ていうか、「うるせぇよ!」 です。
 スタン・リー気取りか!?

 あ、因みに僕が出演していた場面は、MIGHTYが野菜の屋台に倒れ込んで、ブロッコリーを投げつけようとして投げられずにかじった所の、カメラがパンして後ろの射的屋台です。
 分かりましたぁ~? [←うるせぇよ!]


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